第4章
放射線の量と単位
放射線を知る上で、その量と単位について理解することはとても重要です。
この章では、放射線防護の観点から知っておきたい3つのグループ、7つの放射線の量について見ていきましょう。
(1)物理量のグループ
物理量とは、測定器を用いて直接測ることのできる放射線の量を指します。
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① 放射能A [Bq]
放射能は放射線を出す能力であり、放射性核種の1秒間あたりの壊変(=崩壊)数を表します。単位は [Bq(ベクレル、s-1と同義)] を用います。また半減期とは、放射能が半分になるまでの時間を指します。
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② 照射線量X [C・kg-1]
照射線量は、X線・γ線が空気中を通過する時に電離した電子の数=電荷量を表し、単位は [C・kg-1(クーロン/キログラム)] を用います。以前は [R(レントゲン)] が単位として用いられており、両単位の関係は 1 [R] = 2.58×10-4 [C/kg] です。
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③ 吸収線量D [Gy]
吸収線量は、放射線がある物質を通過する時に物質が吸収したエネルギーを表し、単位は [Gy(グレイ、J・kg-1と同義)] を用います。ある放射線が1 kgの物質に1 J(ジュール)のエネルギーを与えた場合、吸収線量D = 1 [Gy] となります。
(2)防護量のグループ
防護量とは、人体の組織・臓器ごと、あるいは全身の被ばく線量を定量化した値です。 線量限度(第5章 個人線量計をご覧ください)と対比することでリスク推定に用いられます。 単位は[Sv(シーベルト、J・kg-1と同義)] を用います。防護量は直接測ることができないため、物理量を基にした計算値となります。
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① 等価線量HT,R [Sv]
等価線量は、放射線の線質(種類やエネルギー)を考虜して算出された、組織・臓器の被ばく線量です。
出展:ICRP Publication103を改編
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② 実効線量E [Sv]
実効線量は、組織・臓器ごとの放射線感受性を考虜して算出された、全身の被ばく線量です。
出展:ICRP Publication103を改編
(3)実用量のグループ
実用量とは、直接測ることのできない防護量に代わり、防護量の保守的指標を与えるものです。 防護量と同様に、物理量を基にして計算される値ですが、一方で測定器の値から算出することもできるため、実際の被ばく線量管理に利用されています。
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① 線量当量H [Sv]
線量当量は、組織・臓器のある一点における吸収線量Dに線質係数Qを乗じたものです。等価線量とは、組織・臓器の一点か、全体平均かの点で異なります。
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② 個人線量当量Hp [Sv]
個人線量当量とは、人体の特定位置において、深さd mmに与えられる線量当量を指します。個人線量当量は、各人が個人線量計を着用することで測定することができる被ばく量です。次章て詳しく説明します。
(4)放射線防護に係る3諸量の関係性
放射線の量と単位について、3つのグループ(物理量/防護量/実用量)に分けて紹介しましたが、それらの関係性を整理すると、下図のようになります。
出展:ICRP Publication103を改編
最後に、本章で紹介した放射線の量と単位をまとめます。
代表的な放射線の量と単位
グループ | 放射線の量 | 記号 | 単位 | 定義 |
(1)物理量 | ① 放射能 | A | s-1 [Bq] | 1秒間に崩壊する(放射線を放つ)放射性核種の数 |
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② 照射線量 | X | C・kg-1 [R] | 光子(X線・γ線)が1 kgの空気中に電離した電荷量 | |
③ 吸収線量 | D | J・kg-1 [Gy] | 放射線が1 kgの物体あたりに付与したエネルギー | |
(2)防護量 | ① 等価線量 | HT,R | J・kg-1 [Sv] | 等価線量 = 放射線加重係数 × 平均吸収線量 HT,R = WR × DT,R |
② 実効線量 | E | J・kg-1 [Sv] | 実効線量 = Σ(各組織の等価線量 × 組織加重係数) E = Σ(WT × HT) |
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(3)実用量 | ① 線量当量 | H | J・kg-1 [Sv] | 線量当量 = 吸収線量 × 線質係数 H = D × Q |
② 個人線量当量 | Hp(d) | J・kg-1 [Sv] | ・ Hp(10) …人体の特定位置、深さ1 cmの線量当量 ・ Hp(3) …人体の特定位置、深さ3 mmでの線量当量 ・ Hp(0.07) …人体の特定位置、深さ70 μmでの線量当量 |