長瀬ランダウア株式会社
メニュー

放射線の基礎知識

放射線の産業利用

第7章
放射線の産業利用

放射線は、医療、農業、工業、環境保全、研究と、様々な分野で活用されています。この章ではその一部を紹介します。 まず、各分野で利用されている放射線とその用途を表にまとめました。


各分野で利用されている放射線の種類と産業利用

分野
用途
電磁波
粒子線
X線
γ線
α線
β線
電子線
中性子線
陽子線
重粒子線
医療
1
レントゲン検査
2
CT検査
3
透視検査
4
PET検査
(◯)
5
SPECT検査
6
放射線治療
(外部照射)
7
放射線治療
(内部照射)
8
BNCT
(◯)
(◯)
9
医療機器滅菌
農業
10
品種改良
11
食品照射
12
害虫駆除
工業
13
非破壊検査
14
厚み計
15
液面計
16
高分子加工
17
半導体加工
環境
保全
18
下水汚泥処理
19
排ガス処理
研究
20
年代測定
21
放射化分析
22
可視化技術

(1)医療分野での利用

X線診断

X線は1895年にレントゲン博士によって発見されて以来、特に医療分野において、広く利用されるようになりました。X線の「物質を透過する」特徴を利用すると、人体を透かした画像を得ることができます。 骨のようにX線が透過しづらい物質は白く、肺のようにX線が透過し易い物質は黒く映ります。撮像された画像はそのコントラストから病変の診断に用いられます。


① レントゲン検査

レントゲン検査では、体内を透視した画像を得ることで簡易に診断を行うことができます。
最も普及しているX線診断の手法です。

② CT検査

CT(Computed Tomography)検査では、体内を平面画像ではなく断面像として撮像することで、より詳しく組織や臓器を診断することができます。

③ 透視検査

透視検査では、人体に対して継続的にX線を当て、体の内部を動画として観察しながら手術を行うことができます。血管透視がよく知られています。

核医学検査

核医学検査では、放射性薬品を患者さんに投与し、目的の組織や臓器に集積したRIから体外へ放出されるγ線を検出器で測定し画像化します。これにより、がんや病変の状態を診断することができます。

④ PET検査

PET(Positron Emission Tomography)検査では、陽電子を放出するRIを薬品に含ませ、がんや病変に集積させます。陽電子が電子と結合して消滅する際、511 keVのγ線が三次元の正反対方向に放出されることから、がんの位置を立体的に知ることができます。

⑤ SPECT検査

SPECT(Single Photon Emission Computed Tomography)検査では、単一光子(γ線)を放出するRIを放射性薬品として用います。RIから放出されたγ線をCTによって撮像することで立体画像を得ることができます。

放射線治療

放射線治療では、画像診断によって得られた病変の位置情報を基に、患部に集中的に放射線を当てることでがんを治療します。がん細胞は正常細胞に比べて放射線感受性が高く、細胞致死作用の差が治療効果として得られます。
放射線治療には様々な種類がありますが、大きく分けると、体外から放射線を照射する外部照射(⑥)と、体内にRIを取り込ませて治療する内部照射(⑦)の二つがあります。

⑥ 外部照射

代表例として、加速器を用いてX線や電子線を照射する医療用直線加速装置Linac(Linear accelerator)による治療や、イオン化した重粒子を加速して照射する粒子線治療があります。

⑦ 内部照射

代表例として、密封されたRIをがんの表面や近傍に近づけて照射する密封小線源治療法(前立腺癌、子宮頸癌、舌癌など)や、経口または静注によって体内にRIを投与し、がんに集積したRIが放射線を放つことで治療するRI内用療法(バセドウ病、甲状腺癌、悪性リンパ腫など)があります。

⑧ BNCT

近年新たな放射線治療として注目を集めているのが、BNCT(Bolon Neutron Capture Therapy)です。BNCTでは、ボロン10で標識した放射性薬品をがんに集積させ、体外から中性子を照射します。ボロン10は中性子により核反応を起こし、荷電粒子(α線とリチウムイオン)を放出することでがんを選択的に治療することができます。

診断・治療以外

⑨ 医療機器滅菌

医療機器にγ線や電子線を照射し、付着した微生物を死滅させ滅菌することができます。

(2)農業分野での利用

⑩ 品種改良

優れた形質を持つ作物等を生み出すためには、突然変異種の選抜・育成が行われます。放射線照射によって突然変異の発生率を高め、新たな品種の作成を促すことができます。

⑪ 食品照射

食品への放射線照射により、腐敗の原因となる細菌やカビを死滅させて鮮度を維持することができます。日本ではジャガイモの発芽防止目的でのみ、食品照射が行われています。
※照射されたジャガイモが放射能を持つことはなく、数か月間保存することが可能です。
 また食品衛生法では、包装容器に「照射されたジャガイモである」との表示義務があります。

⑫ 害虫駆除

農業害虫に対し、放射線照射で不妊化したオスを大量に放つことで、次世代の発生率を徐々に低下させ根絶することができます。ウリミバエでの放射線利用がよく知られています。

(3)工業分野での利用

⑬ 非破壊検査

レントゲン画像と同じ仕組みで、X線・γ線照射時の物質透過量の違いにより、内部構造を見たり、欠陥箇所を発見することができます。身近な例として、空港での手荷物検査があります。

⑭ 厚み計、⑮ 液面計

放射線を物体に照射し、その吸収度合いから試料の厚みを測ることができます。高分子薄膜ではα線を、紙ではβ線を、金属板ではX線・γ線を用います。

⑯ 高分子加工

高分子製品に電子線を照射することで、重合や架橋などの化学作用を引き起こし、強度を高めることができます。タイヤ加工(ラジアルタイヤ)や耐熱電線などが知られています。

⑰ 半導体加工

半導体の回路露光(X線、電子線)や不純物の導入(中性子線、重粒子線)に放射線が利用されています。半導体に欠かせない加工技術と言えます。

(4)環境保全分野での利用

⑱ 下水汚泥処理、⑲排ガス処理

医療機器滅菌(⑨)同様に、放射線照射によって下水汚泥や排ガスを殺菌することができます。また、微生物では分解の難しい有機物の分解作用も併せ持ちます。

(5)研究分野での利用

⑳ 年代測定

生命体に含まれる炭素14の濃度は、生存中はおよそ一定に保たれますが、死んだ後は増えることなく崩壊し続けます。したがって、遺物の炭素14の残量を調べることにより、何年前に死亡したか、すなわち年代測定が可能となります。他の放射線利用が人工放射線を用いているのに対し、年代測定は自然放射線を用いていると言えます。

㉑ 放射化分析

中性子照射によって試料中の元素に核反応を引き起こし、生成された放射性核種の放射線を測定することで、元素の分析・定量を行うことができます。検出感度が高く、少量の試料でも分析が可能です。

㉒ 可視化技術

有効な新薬の一部分を、トレーサー(追跡の目印)としてRI標識し、疾患モデル動物に投薬します。トレーサーから出る放射線を測定することによって、薬品の移動する様子や体内分布を調べることができます。